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NAGIEジャーナルVOL.8 
銅冶勇人さん 
肯定し合える環境の中で、一緒に物差しを創っていく事の大切さ

No.8 銅冶勇人さん/実業家

NAGIEを応援して下さる皆さまに、自身のサステナブルライフについて伺うインタビューシリーズ。第8回目は、アフリカにおける雇用創出等を目的に自社生産工場を運営するアパレルブランド“CLOUDY”の代表として活躍される銅冶勇人さんのサステナブルライフに迫ります。

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銅冶勇人(どうやゆうと)さん

アパレルブランド「CLOUDY」/NPO法人「Doooooo」代表

1985年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、2008年ゴールドマン・サックス証券株式会社に入社。2010年にアフリカでの教育活動等を行う特定非営利活動法人「Doooooo」を創立。2014年に同証券会社を退職し、2015年株式会社DOYA創立。同年9月にアパレルブランド「CLOUDY」を創立。日本各地でポップアップショップや様々なコラボレーション企画を展開するとともに、定期的に学校でアフリカについての講義を行う等、啓蒙活動も続けている。

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 1.広く関心を持ち、深く想像することで自分の幅が広がる

ーアメリカンフットボールに出精されていた学生時代。スポーツを通じて学び、今でも大事にされているメンタリティはありますか?

誰よりも努力する、日本一を目指すなどの言葉はよく耳にしますが、スポーツに打ち込む限りそれは当たり前のこと。そういった綺麗な言葉ではなく、何のためにこの練習をしているのか、そもそもなぜ全員で勝利を目指すのかなど、常に1歩踏み込んで”Why”を問うことを大事にしていました。そうすることで、気付かぬうちに自分のエゴだけで突き進んでしまうことを避けられると思うんです。

もう1つは、他人の立場になって考えること。ずっとレギュラーだった自分は、怪我で試合に出られなくなった時、他の選手が試合で活躍するのを見るのが苦痛で仕方がなかったのですが、その時初めて試合に出られない人の気持ちや役割を理解しました。チームには、試合に出て勝利に貢献する人、チームをマネジメントする人、選手を裏側で支える人、色んな立場の人がいる。それぞれの立場を考えて動ける人が増えれば、スポーツに限らずチームは強くなると思いますし、今も常に意識しています。

 

 

ー 一つのことに没頭すればするほど、思いが強くなればなるほど、周囲への意識や配慮を持ち難くなってしまうこともまた事実だと思います。

そうですね。ただ、人は1人で生きているわけではなく、常に誰かしらに影響を受けているものです。時には自分が、すごくとりとめもなく上司に怒られたりすることもある。そういった時にこそ、相手にもいろんな人間関係や立場があり、事情があり、状況があることを想像することが大切だと思います。

怒る側にも理由があって、怒られる側にも理由がある。人の全ての言動や何かしらの結果には、必ず理由があるということをちゃんと理解、意識できているかどうかで、物事の運びは大きく変わってくると思いますね。

また、昔からそうなのですが、一つの事に没頭することへの美学はあまり感じていないタイプです。一つの事に一生懸命取組むのは大事なことですが、ある意味当然のことで、私にとっては正ではない。それ以外の事に関心を持ち、感じ、勉強してみたりする。それが自分の中の幅を広げ、見分を深める事に繋がる。次第に、スポーツも勉強も仕事も、それぞれが良く影響し合うようになってくる。そうやって常日頃から色んなことに関心を向け、固定概念を持たないようにしていると、自然と、広く心に余裕のある物事の見方ができるようになると思います。

 

アフリカに関心を持たれたのも、そうやって幅広くアンテナを張り、常に余白を持っていらっしゃったからなのですね。

幼い頃からスポーツに関心があり、プロ野球の選手名鑑を見るのも好きだったのですが、そこに出てくる外国人選手がとても格好良く見えました。その後もオリンピックやNBAなどで活躍する海外の選手、特にアフリカ系の選手に憧れを持っていました。

中学生の時には、Boyz Menを切っ掛けにブラックミュージックにはまり、そこで音楽の世界の深さに触れました。音楽を通じて、遠いアフリカの文化や歴史を感じたんです。そんな中、図書館で偶然開いた民族に関する写真集を見て改めて、世界には色んな人種の人がいて、様々な生活の形があることを知りました。

自分とは全く異なる文化の裸族のような人たちや、身体にペイントをする人たちもいる。実はそのペイント1つひとつにも深い意味があり、生活の端々で古くから受け継がれる伝統が重んじられている。こんな世界があるんだな、いつか行ってみたいなと思っていて、大学の卒業旅行で初めてアフリカに行き、マサイ族の方のもとにホームステイをしました。

 

2.忙しさや難しさは理由にしない。人と人との関係性の中で形にしてきたこと。

ー 人として、そして関心の幅も広かった銅冶さんが、外資系金融をファーストキャリアに選ばれた理由は?

子供の時からとにかく人に喜んでもらうのが好きで、始めはテレビ局に就職するつもりでした。自分自身も人生の中で色んなものに楽しませてもらってきました。家族や友人、先生、スポーツ、音楽...、色々あるが、中でもテレビの存在が大きかったんです。常に新しい情報、笑いが詰まっていたのがテレビで、いつか自分も制作に携わりたいと思っていました。

実際テレビ局から内定も頂いたのですが、就職活動は社会を広く知るチャンスだと思い、「すごい会社がある」と聞いていたゴールドマンサックスを受けました。金融も証券会社のことも良く分かっていなかったのですが、数十名の現場社員の方々と面接をする中で、全員が同じ方向を向き、高い目標を持ち、結果に強くコミットしている姿勢に惹かれていったんです。

お金、地位、名誉、ライフワーク...、人それぞれだったが、上に上に登っていきたいという目的意識は全員共通していて、「まぁこの程度でいいかな」といった中途半端な事をしている人が1人としていない。実際入社後は、毎日試合をしている感じでした。

 

ー 多忙とプロフェッショナルな人々の中での苦労は相当なものだったのでは...

当時はブラインドタッチもExcelも全くできず、英語も英検4級レベル。1人では何もできない中考えたのは、周りの人々にどうやって気持ちよく、柔軟に動いて頂けるかということでした。

PCで資料作成したことさえないなんて、能力がなくてダメだ」ではなく、「今は未熟だが可愛いやつだ、銅冶くんだから助けてあげるよ」という関係性にもっていけるかどうか。その代わり他人ができないことは誰よりも自分が率先してやり、1秒でも早く、タメ語を使い合えるくらいの相互補完の間柄をつくれるようにしていました。

 

ー なぜ教育関連のNPO法人を立ち上げ、また、本業もお忙しい中どのように時間を工面されていたのでしょうか。

現地で一番初めに疑問に感じたからです。なぜ子供たちが学校に通えていないんだろう、と。子供たちの教育から何事も始まっていくわけで、それをどうにかしたかった。当たり前のモノが無くて、格差があると感じましたが、ただ、今考えるとそれは自分自身のエゴだったかもしれません。自分の物差しで見ていたけれど、決して学校行かないこと自体が不幸なこととは限らない。自分たちの物差しで彼らの幸せを判断するものではないし、格差という言葉も使うべきではないと今は思います。

また、忙しさとか大変さとかは個人が決めることではないと思います。時間は誰にでも平等にあり、どう使うかという覚悟の問題。510分でも、それが積み上げられれば大きな時間になります。やりたい事がどんどん出てくることは幸せなことだし、やりたいと思った事があれば、後はそれをどう実現するか考えるだけ。無理だとか、できないだとかは思いません。

 

その後程なくして会社を辞め、アパレルブランド”CLOUDY”を創設されていますね。

現地への思いや課題意識が日に日に高まっていき、2015年に”CLOUDY”を立ち上げました。アフリカをポジティブに捉えてもらいたいという思いと、ブランドである限りビジネスとしてもサステナブルでないといけないとの考えがありました。

現地のお母さんたちが、庭先でミシンを動かしたり髪の毛を結んだり、そういった文化や生活を肌で感じたこと、また、ジェンダー格差があり女性の就業問題が深刻だったことから、アフリカの人々の感性や文化を活かして、遠い日本という市場でもその良さを伝えられるアパレルブランドとしてスタートしました。

 

3.SDGsを事業にする。自分事と捉えてもらうこと、尊重からシナジーを生むこと。

ー 最近でこそSDGsや社会起業家への関心が本格的に高まっていますが、元来NPOとブランドビジネスを同時経営されてきた中で、どういったことを意識されているのでしょうか?

「自分事になって頂けるかどうか」ということです。

アフリカという国は、世の中の殆どの人にとっては自分の生活に全く関りが無く、遥か遠くに感じてしまう。だから幻想的なイメージが強くなってしまうと思います。また、今でこそSDGs、エシカルという言葉を頻繁に耳にしますが、日本では言葉の一人走りがよくあります。良くも悪くも日本人は成功体験を大きく描いてしまいがち。大きく描けば描くほど、スタートが切れなかったり、途中で辞めてしまったり、準備が多く長くなったりすると思います。

だからこそ、ちゃんと実現可能性のあるレベルでのステップを描いてあげることがとても大切です。アフリカのことであれば、身近に感じてもらえるコンテンツやアイテムをどれだけご用意できるかどうか。SDGsのことであれば、日々の24時間の中で如何に自然な取組みとして提案できるかどうか。見えてないこと、見て見ぬふりをしていることは日常生活の至る所にあるものだと思います。

 

ー “SDGs”や“サステナブル”も、一過性のトレンドのように終わってしまわないか不安です。

勿論、本質的なメンタリティとして浸透するのが理想的ですが、ただ、世の中の人たちがそういうものに触れること自体はとても良いこと。地球や社会課題に向き合うことも、ファッショントレンドとして楽しむことも、両方に良さがある。

だから大切なのは、肯定をできる世の中になることだと思います。物事には、良い面もあれば悪い面もあるのもまた事実。ファストファッションも、CLOUDYも、NAGIEもきっとそう。ただ、それには必ず理由があります。

だから、何事も否定から入るのではなく、「こうすれば更によくなるんじゃないか」という風に、肯定の上で提案できる世の中にしていきたいですね。先の話に戻りますが、人にも物事にも、全て理由と立場がある。一緒に物差しをつくり、相互に尊重し合うことで良いシナジーも生まれてくると思います。

 

ーCLOUDYでは、アパレルに限らず様々なブランドさんとコラボレーションを行い、まさに良いシナジーを生み出されていますね。

他の方、ブランドさんとご一緒させて頂く場合、数字だけを追い求めるものはやらないようにしています。互いの思いが重なり、そこにプラスαのシナジーとして次に繋がるものがないと、自己満足に終わってしまい兼ねません。これを前提に、特に今私たちのブランドが意識しているのは、普段目を向けてくれない層の方々に知ってもらうこと、感じてもらうことができるかどうかです。

情熱的な部分とビジネスライクな部分。この両方があってこそ、ブランドとともにCLOUDYNPOにかける思いが広がっていくと思っています。

 

ーアフリカのイメージが強いCLOUDYですが、最近はリサイクル事業にも取組まれていますね。今後の展開、目標はどのように考えていらっしゃいますか?

こういった事業においては、ブランドにイメージを持ってもらえることが大切だと考えます。だから、色んな角度から興味を持ってもらい、ブランドへのイメージが増えていけば良い。色んな七変化が出来るCLOUDY、各々が思うCLOUDYで良いと思っています。

現在、現地ガーナにデザイナーを抱えてオリジナルのテキスタイルを作っているのですが、これをCLOUDYやファッション分野に限らず、ライセンスビジネス化したいと思っています。

最近では、クラブハリエさんのパッケージデザインにも採用頂きました。また、ガーナでは、実は海外からの洋服の寄付が大きな問題になっています。港に着いて売買された後、50%も残り、埋め立てられるかゴミの山になるか、というのが現実です。

ガーナはアフリカの中で汚い国と言われていますが、ゴミを回収して商品に変えていく、工場を作り人を雇うといったことを通じて、現地のゴミを笑顔に変えていけるような、日本発のアフリカンテキスタイルブランドになれたら素敵ですね。